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評価系としてのメタボロミクス
 今回は、11月16日にかずさアカデミアパークで開催された「ちばバイオクラスター交流会〜植物メタボロミクスの最近の新展開〜」に参加された大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の太田大策教授にメタボロミクスについてお話を伺いました。先生は、シトクロムP450が関わった代謝経路の解明に造詣が深く、FT-MSを使ったメタボローム解析分野で、かずさのプロジェクト研究に参加されています。
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聞き手 昨日はちばバイオクラスター交流会にご参加いただいてありがとうございました。昨日のテーマは先生も取り組んでおられるメタボロミクスでしたが、先生がメタボロミクスを始められたきっかけについてお伺いできますか。

太田教授 私は、以前からシトクロムP450というヘム蛋白質(酸化酵素の1種で解毒、ステロール生合成、脂肪酸代謝、色素生合成などに関わる)の機能解析を行ってきました。シロイヌナズナやイネなどの様々な生物のゲノム解読が進み、その情報が使えるようになって、シロイヌナズナでは300弱のP450遺伝子があることがわかっています。そのうち機能がわかっているものはせいぜい30から40くらいでしょうか、それ以外ではほとんどわかっていません。そうした時にどうやって遺伝子の機能を見つけて行けばよいのかと。顕著なフェノタイプ(表現型)が見えている変異体を解析するとその変異の原因がP450であったという事例がありますが、それ以外のものについてどうやって調べていったらよいかという方法論がなかったんですね。仮に表現型がみえたとしても、そのP450の生理基質は何で、どのような機能を持っているのかわからない。そこでメタボロミクスつまり代謝の一斉解析ということができれば、P450の新しい生理機能が見つかるのではと思って、始めたのがきっかけです。
 P450遺伝子の数が多いといっても300程度ですから、過剰発現体やノックアウト体のメタボライト(代謝物)を調べてそのプロファイルを比較していくとP450の基質がわかるのではないかと考えました。P450の酵素反応は、基質への1原子の酸素添加反応なので、酸素原子添加による質量のシフトを見ることができれば、P450依存的に反応が起こって生成した化合物が、ディファレンシャル・ディスプレイみたいな形で見えてくるだろうと。それがメタボロミクスを始めたきっかけで、なおかつFT-MS(フーリエ変換型質量分析計、化合物の精密質量が測定できるので化合物の同定に威力を発揮する)が必要だと思ったきっかけはそこにあります。

聞き手 そうしたメタボロミクス的手法でP450の機能解析ができた例はありますか。

太田教授 メタボロミクス的手法というか、ある程度どういった基質にP450が関わっているかという目安をつけてから、プロファイリングをして確かめた例―これはステロールの生合成系ですが―がありますね。それから、まだ論文にはしていませんが、脂肪酸代謝とフェニルプロパノイド代謝の関連について、6個のP450遺伝子の解析を進めているところです。ただ、脂肪酸に対する代謝の活性はあっても、それが生理学的にどんな意味があるのかということは別の問題で、次の大きな課題です。
 そういった経緯の中で今考えていることがあります。メタボロミクスを使ってP450などの酵素の機能解析をする出口というのは、植物生理学のベーシックなサイエンスだけではなくて、応用酵素化学の新機軸になると思います。つまり、新しい触媒機能を探索するツールとしてメタボロミクスを使えばいいのではないかと考えています。とくに、大学の研究の中では、昨日発表されたDNA研や理研がやっているような大規模なメタボロミクスはできないので、よりマニアックな基本的なテクノロジーを確立できればと思います。高速で解析する技術や酵素反応液をそのまま解析する技術などがそうです。例えば、384穴プレートのフォーマットで1000種類の組換え蛋白質を10万種類の基質候補化合物と反応させて、そのなかから医薬品の製造過程に必要な酵素がピックアップできるだろうと。そういうテクノロジーとの基礎を作るのが、大学レベルでのメタボロミクス的アプローチとして現実的かなと思っています。

聞き手 それは、オミックス研究の統合により生命現象を理解していくというシステムバイオロジーの中のメタボロミクスとは、違いますね。

太田教授 現時点では、何か現象があって、メタボローム解析をするとそれに合致する知見が得られるという段階で、メタボロミクスのデータから植物なら植物の個体がこういう生理的な状態にあるというのを判断する段階には至ってないんです。メタボロミクスを使って生物の反応を見ていくのはまだまだ難しい面が多いと思います。ですから、有用物質生産とか育種、例えばトマトのリコペンを増やすというミッションがあって、そのために必要な形質を見つけてくるといった方向性において、メタボロミクスは強力なツールになると思いますね。どれだけ具体的な目標があるかということです。私は、メタボロミクスの方法というのは形質評価系の一つだと思っています。そのことを念頭において研究を進めているつもりです。
 話はそれますが、私は大学にいるので、メタボロミクスというポストゲノムのアプローチを取り入れることによって、学生に対する刺激にもなります。新しい分野の研究の方向というかものの考え方を伝えていく必要があるという思いもあります。

聞き手 かずさとの関わりについて伺えますか。

太田教授 DNA研の柴田先生とは昔からお付合いがあります。NEDOプロジェクト(植物の物質生産プロセス制御基盤技術開発)にも参加させていただいています。それが縁で、FT-MSを使ったメタボローム解析ということで、地域コンソ(最新型質量分析器を用いた有用水酸化酵素の高速探索法の開発)にも参加しました。
 かずさは緑豊かでいい環境にあると思いますが、アクセスがもう少し便利にならないでしょうか。せめて木更津駅からのバスがもっとあるといいですね。

聞き手 メタボロミクスに限らず、今後の研究の方向や夢について考えておられることはありますか。

太田教授 夢というかやりたいと思っている方向性としては、一つには低分子の化合物について、単に生合成・代謝だけでなく、いったいその化合物がどんな役割を担っているのか、どんな生物学的な意味があるのか、なぜその物質をその時その場所で作るようになったのか、あるいは作る必要があったのかを物質の機能レベルから考えてみたいということがあります。私の扱っているP450の一つはステロールの生合成に関わっていますが、そのステロールをつくる必要性がなぜその生物にあったのかということを調べたい。生理機能がすでに明らかな生理活性物質の生合成や代謝経路の一部(P450など)にはあまり興味がありません。
 それから、植物の成分が動物の代謝にどのような影響を及ぼすかということに興味があります。昔、癌の研究をやっていたことがありますが、動物の発育に関わるある蛋白があり、その情報伝達に植物のステロイドアルカロイドが関わっていて、それは抗癌剤として使えるのではないかといわれています。そういった植物の成分が、なぜ動物の生物的機能に影響を与えているのかについても調べていきたいと思っています。つまり、その植物成分が結合する動物タンパク質のドメインに対しての未知の内生リガンドがあるのではないかということです。
 メタボロミクスということでは、コンビナトリアル・ケミストリーでいろんな物質ができるといわれていましたが、リード化合物の多様性というのはやはり天然物にあって、そういうものを探索する方法としてメタボロミクスが使えると思っています。また、さっきも言ったように、アッセイの評価系としてのメタボロミクスを広めていきたいと思っています。メタボロミクスは今、システムバイオロジーの面が強調されていますが、もっと応用の出口を目指したテクノロジーなんだということです。ホームランばかり狙うのではなく、現実的な成果をシングルヒットでもいいから出していかないと理解してもらえないですから。

聞き手 どうもありがとうございました。(取材日:平成18年11月17日)
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
応用生命科学専攻生物情報科学分野細胞情報化学講座のホームページ
http://www.bioenv.osakafu-u.ac.jp/grad/lifesci/staff_joho2.html
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