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 今回は、(財)かずさDNA研究所の田畑哲之副所長(植物ゲノム基盤研究部長兼任)にゲノム解析研究とその応用についてお話を伺いました。
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聞き手 本日はお忙しい中、お時間を割いていただいてありがとうございます。さっそくですが、先生が研究されている内容についてお伺いできるでしょうか。

田畑副所長 まず、DNA研では、植物と植物に関わりの深い微生物のゲノム構造、つまりゲノムの解読と遺伝子機能の解明を中心にこれまで研究を進めてきました。植物についてはこれまで作物の改良の基盤となるモデル植物を材料として扱ってきました。モデル植物がなぜ必要かというと、たくさんの植物それぞれを直接、研究対象として実験を進めていくのは難しいんですね。生長が遅かったり、遺伝子の数が非常に多かったりします。樹木においてはスペースの問題もあります。それから、遺伝子の働きを調べるためには、植物の中に入れて解析する必要がありますが、外部から遺伝子を導入できる植物は限られています。そこでモデル植物が必要となってくるわけです。例えばシロイヌナズナは、植物の基本的な機能を持っているモデル植物として、世界中で研究されています。DNA研究所は国際プロジェクトの一員としてそのゲノム解読に貢献しました。まもなく解読が終わるミヤコグサはダイズなどマメ科のモデル植物として重要です。

聞き手 マメ科が注目されるのはどうしてでしょうか。

田畑副所長 作物で日本人にとって重要なのはイネですし、西洋だったらコムギですね。でも南米とか東南アジアでは、穀類としてインゲンなどのマメ科植物は重要で、イネ科に次いで消費量が多くなっています。また、マメ類は油の原料や家畜の飼料となり、有用物質も含んでおり用途が広いので、重要性が高いといえます。日本でもダイズが広く使われていますが、95%以上輸入に頼っています。

聞き手 マメ科植物には根粒菌が共生して窒素固定をしますが、そういう意味で根粒菌のゲノム解読も進められたのでしょうか。

田畑副所長 根粒菌との共生窒素固定はマメ科植物に固有のもので、その仕組みを解明することは環境問題やエネルギー問題を考える上で重要です。とくに途上国では肥料をたくさん使用することもできませんし、世界中で窒素肥料の多用が問題となっています。
 植物に関わりのある微生物ということでは、根粒菌だけでなく光合成をおこなう藍藻の解析も進めてきました。ですから、私たちの研究部では植物の遺伝子研究の基盤的な部分、ゲノムの暗号解読やたくさんの遺伝子の働きを大規模に調べるということをやってきました。

聞き手 ゲノムが解読されたことによって、遺伝子機能の解析はどのように進んでいるのでしょうか。

田畑副所長 遺伝子機能の解析といってもいろんなレベルがあります。例えば根粒菌だと6000〜8000個の遺伝子があり、最終的にはその一つ一つがどのような働きをしているか調べることが生物学における一つのゴールとなるわけですが、それはとても大変なことです。研究のスタイルとして自分が専門としている遺伝子について深く研究していくこともありますが、私たちがやっている機能解析というのは、6000なら6000の遺伝子について、おのおのがどんな遺伝子と細胞の中で相互作用しているのかという広く浅い機能解析になります。そのデータを様々な研究者に提供し共同研究をやって、一つ一つの遺伝子については各分野の専門家が深く調べています。ですからここでは遺伝子機能の基盤データ、遺伝子構造の基盤データを作って、蓄積し、発信していくということを進めてきました。
 この研究所ができたころは、ゲノム解析をやっている人はほとんどいなかったのですが、この十数年の間に急速にゲノム解析が進んでいます。技術的進歩もあって、今ようやくモデル植物だけでなく作物にも手が着けられる状態になってきました。作物についても断片的ですがゲノム解析の手法を用いて、モデル植物で得られた情報を移転しながら、遺伝子機能の解析が進みつつあります。例えば、ミヤコグサとダイズは進化的に近いのでゲノム構造も似ています。ミヤコグサのゲノム情報を使って、ダイズのゲノムから重要な遺伝子を見つけるということが行われています。これまでこの研究部で蓄積してきたモデル植物のゲノム情報が、ようやく産業植物に利用されるようになってきたと思います。そういったこともあり今、モデル植物だけでなく、ユーカリやトマトといった産業植物へもゲノム解読の対象を広げています。
 ユーカリは紙の原料で、日本では栽培できませんが、製紙会社が大規模に海外で栽培しています。ところが栽培に適した耕地は限られており、紙の需要をまかなっていくには、砂漠など条件の悪いところで生育できるユーカリを育種する必要があります。乾燥耐性の遺伝子とか耐塩性といった遺伝子を見つけて育種していかないと生産が増やせないんですね。
 トマトのゲノム解読には国際プロジェクトの一員として参加しています。トマトはナス科で、ナス科にはナス、トマト、ジャガイモ、コーヒー、トウガラシ類が含まれており、多くの国で利用されています。12カ国が参加して、ナス科植物の育種や有用遺伝子の探索に向けて、トマトのゲノム解読を開始しています。トマトのゲノムがわかれば他のナス科植物の育種にも利用できると期待されています。

聞き手 育種ということでは、DNAマーカーの研究もされていますが。

田畑副所長 育種の方法としては2種類あります。一つは遺伝子組換えです。有用な遺伝子を見つけてそれを入れてやるということですが、作物に遺伝子をいれることが自体むずかしい、入れた遺伝子がうまく働かない、一つの遺伝子を入れるだけでは目的の性質が現れないといった技術的な問題があります。また、日本では社会的なアクセプタンスも得られていません。
 もう一つの手法としては従来から行われている選抜育種ですね。ただ、これは時間もかかるし、広い場所も必要となります。この選抜のプロセスを加速するためにゲノム情報が利用できるわけです。塩基配列から重要な遺伝子を見つけるということもありますが、ゲノム解読の結果、DNAマーカーが簡単に作れるんです。一つ一つの遺伝子の配列を見つける必要はなくて、遺伝子と関連するDNAマーカーがわかれば、そのマーカーを頼りに育種することができます。例えばミヤコグサのゲノムが解読できれば、DNAマーカーが作れるので、ダイズにも応用できます。有用な性質にいくつかの遺伝子が関与していてもマーカーを使えば、育種ができます。また、植物を大きく育てなくても、芽生えくらいの段階でDNAマーカーをもっているかどうか調べればよいので、時間と場所も節約でき、選抜が非常に楽になります。
 研究部の今後の方針としては、作物のゲノム解読を進めるということと育種に向けた作物のDNAマーカーの整備ということになります。これまでの10年間のモデル植物の基盤情報を作物へ積極的に利用していくことになります。ただ、実際の育種はこの研究所ではできないので、千葉県農業総合研究センターや企業と共同研究を進めて、実用化を図りたいと思っています。

聞き手 どうもありがとうございました。
(財)かずさDNA研究所 植物ゲノム基盤研究部のホームページ
http://www.kazusa.or.jp/ja/plant/
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